研修・学会・講演

世界最高の研修を受講 in フランス2016

2018.02.01

埼玉県三郷市のあべひろ総合歯科、院長の阿部ヒロです。
毎年秋の学会シーズン、今年は9月22日から10月2日にかけて、フランス5つの都市へ行ってまいりました。

※ 再生時に音声が流れますので、音量にご注意ください。

シルバーウイークと重なったため直行便が取れず、イスタンブール(アタトゥルク国際空港)経由でフランスに入りました。

パリ=シャルル・ド・ゴール空港からは国内線でモンペリエ・メディトゥラネ空港へ。さらにタクシーで1時間ほど離れたボォベールという街に。さすがに24時間もの移動で疲労がたまったものの、到着したら疲れなんて忘れてしまいました(笑

今回のパリ行では目的が2つありました。一つはフランク・レノアー(レヌアー)先生のプライベートレッスンで、ニームでの研修講義とパリでのライブオペ見学、もう一つは中1日挟んでのEAO(ヨーロッパインプラント学会)への参加です。

到着したボォベール、そこは一面に広がるワイナリーたるブドウ畑です。世界的に有名なインプラント外科医であるレノアー(レヌアー)先生はワイナリーを趣味で経営しているとか。銘柄はスキャマンドルというワインで、あのパリの三ツ星レストラン・アランジュカスにも置かれているほどのワインだそうです。このワイナリーに講義室があり、みっちり講義を受けてきました。

誰にも邪魔されない広大な環境でのプライベートレッスンはとてつもなく濃厚でした。私は今世界で最も指導を受けたい先生は誰か、と尋ねられたら、真っ先にレノアー(レヌアー)先生と答えるでしょう。

彼の輝かしい功績は、論文や一般的な講演でしか聞いたことがありませんでした。それらをもとに臨床に励んできたわけですが、今般願いが叶い、レノアー(レヌアー)先生直接指導のもとで自分を見直し、そして考え方の疑問や長年蓄積されてきた経験と検証を直に確認できたのはとても勉強になりました。

勉強の合間にはブレイクタイムがあり、ワイナリー見学やテイストをさせていただきました。

講義をしているレノアー(レヌアー)先生の手には、私がお土産に持っていった“あべひろ総合歯科オリジナルうちわ”です!
このうちわも、とうとう世界クラスになりました(笑

彼の講義の中で、とても印象的なことがありました。今日現在、インプラント手術を成功させる基準や技術は十分に普及しています。その上で、長期失敗を回避するための施策を今から施す診療形態にすべきことを強調しておりました。1%の成功率アップよりも1%のリスク回避率アップ。ヒューマンエラーを無くす仕組み作りが大切である。臨床ではテクニカルエラーやその場その場での状況における適切な対処というものが求められますが、そのリカバリーの考え方や対応の仕方を学びました。私たち臨床家はとかく技術や新しいことにばかり目を向けがちです。そしてそのような知識や技術をたくさん履修、習得してきましたが、エラーの発生頻度やリカバリー、長期予後の観点に立って1%の目の前の成功ではなく、長期に落ちてくる成功率の30%を上げる必要があります。

ワインとおいしい食事の飲み過ぎ食べ過ぎで筋トレをしていたら、レノアー(レヌアー)先生が面白がって写真を撮ってくれました。ここでもRIZAPあべひろ健在です(笑

最終日、パリへ行く前にニームの観光名所「コロッセオ」を訪れました。コロッセオといえばイタリアのローマが有名ですが、このニームの闘技場は世界で一番保存状態が良いということで世界的遺産になっています。

~コラム~( ^^) _U~~
ニーム。日本ではあまり知られていない街。少し離れた観光地のニース、テロがあったところと誤解される場所。そんなニームも、私たちに馴染みあることが一つだけある。ニームは中世から織物産業が盛んな町として知られ、ニーム製の綾織布地は丈夫なことで評判が高かったという。かのコロンブスも自分の船の帆布にはニームで織られた布しか使わなかったそうだ。私たち日本人にお馴染み、ジーンズのデニム生地も実はニーム生まれ。「デニム」の名は、フランス語の「de Nimes(ニームの)」に由来している。これが海を渡り、アメリカ開拓時代に生きた男たちのハードワークを支える丈夫な労働着として商品化されたのがジーンズというわけだ。

見学後はTGV(フランスの高速鉄道)でパリへ。ニームからパリには特急でも3時間以上かかります。パリではルーブル美術館近くのホテルを拠点に活動しました。到着後、すぐにオペラを観たいと同行の古賀先生からリクエスト頂き、あの“オペラ座の怪人”の現場にもなった場所「ガルニエ宮」へ。なんでも劇場の天井画は、あのマルク・シャガールが手がけたとか・・・。

パリでは待ちに待ったレノアー(レヌアー)先生のオフィスでライブオペの見学です。ノーマルの手術から即時加重(インプラントを入れたと同時に歯を入れて噛ませる手法)、サイナスリフト(上顎洞挙上術)まで、初日に5症例を見学し、その後ディスカッションを行い、とても有意義な一日を過ごしました。一番関心させられたのが、手術の流れがルーチンワークであるということ。多くの一流プロがルーチンワークを持っているのと同じく、レノアー(レヌアー)先生も一連の手術の流れを無意識に行っているということでした。そしてとてもシンプルに行っている。難しい症例が簡単に見えるのも、非常にシンプルかつ的確に行っているからと見ていて判断できます。

レノアー(レヌアー)先生のオフィスは凱旋門から500メートルほど離れた高級住宅地の中にありますが、看板や目印になるものが何も無い。それでも毎日ひっきりなしにインプラント手術があり、サイナスリフトだけでも年間150症例を超えるそうです。しかも彼はショートインプラントの開拓者である。それを考えると、いかに圧倒的な症例をこなしているかがわかります。ちなみに日本でサイナスリフトは10症例行うとベテランだそうです(汗

晴天にも恵まれ、秋のフランスを満喫するには絶好の日々でしたが、2日目最終日となると、なんとも焦る気持ちや感無量の感情がこみ上げてきます。フランク・レノアー(レヌアー)先生の講義が今日で最終日だということが何よりも悲しい。午前中のライブオペと過去の偶発症のトラブルシューティングのディスカッション、インプラントデザインや表面正常の長期予後を考えてのエビデンスに基づいたライブオペとディスカッションはとても勉強になりました。やっぱり勉強会ってこうじゃないといけないよな!って思うものの、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

紳士に対応してくださったレノアー(レヌアー)先生とスタッフの皆様に感謝です。フランスのイメージがとても良くなりました(笑
レノアー(レヌアー)先生のオフィスで2日間の手術見学と熱いディスカッションに参加できたことは、これまでの長い臨床の中で抱えてきた疑問を解決するほどの素晴らしいものでした。生きててよかった。歯科医師をやっていてインプラントを勉強し続けていて、本当によかった。

アフターと中1日は次の学会に向けての中休み。昼はラーメン・餃子・チャーハンの三点セットを頼んでみました。パリで!イタリアやアメリカでは全然おいしくなかったけど(笑)、パリでは意外とおいしくちょっと満足。それでも外食価格は高く、本家の日本よりも高い!なんと20euro(約2,300円)もとられました!日本だったら許さないけどフランスだから、まー仕方ないかということですね( ̄∇ ̄;)

その後、ベルサイユ宮殿に立ち寄り、中世のフランス、太陽王ルイ14世の世界を体験してきました。中世ヨーロッパの出来事が頭の中でつながります。高校生の頃、世界史を勉強していてもヨーロッパ各国の関係性がイマイチ理解できませんでしたが、宗教・戦争・階級社会・芸術・文化など、近隣諸国の動きがなんとなくイメージでつながりました。教養を高めるって大事ですね(汗 ん~トレビアン!

短い中休みなので、めいいっぱい観光名所を廻ってきました。

なんと60年も続いているセーヌ川クルーズの「バトームーシュ」。

世界的なシェフ、アラン・デュカスの基で腕を磨いてセカンドシェフにまで登りつめた日本人、小林圭さんのレストランへ。開業1年でミシュラン星が付いたといいます。

大忙しの中一日はツアーを組んで、ユネスコ世界遺産めぐりです。
フランスの三大ユネスコ遺産といえば、ベルサイユ宮殿/モン・サン=ミシェル/シャルトル大聖堂(ノートルダム)。今回はパリから4時間ほど離れたモン・サン=ミシェル修道院へ行ってみました。ツアーバスはオンフルールの町を散策し、サント=カトリーヌ教会を見学後、モン・サン=ミシェルへ。有名なオムレツを食べるも全く美味しくない(日本の食文化と調理法方がいかににすばらしいことか・・・)。モン・サン=ミシェルの後はシャルル大聖堂(ノートルダム大聖堂)を見てパリへ戻ってくるツアーなのですが、朝の7時に出て夜の23時に帰ってくるという超ハードなスケジュール。しかし人生一度は訪れたい世界遺産に触れることができたことは、人生観を大きく拡げる上でとても有意義な時間であったといえます。

~コラム~(モン・サン=ミシェル)
モン・サン=ミシェルは、フランス西海岸、サン・マロ湾上に浮かぶ小島、及びその上にそびえる修道院のことである。西暦708年の大天使ミカエルのお告げを由来とし、966年にリシャール1世が岩山だった小島に修道院を設立したことが始まりである。元々は海に浮かぶ小島が、潮の流れで土砂が100年以上の年月をかけ堆積し陸続きとなった。干満の差が激しく、最も大きい潮が押し寄せるのは満月と新月の28~36時間後だそうだ。引き潮により沖合い18kmまで引いた潮が、いっぺんに満ちたときは辺りが海と化し、きれいな水面鏡になるという。この歴史的建造物は年間300万人(うち半分が巡礼者)が訪れるとか。百年戦争の間は島全体が英仏海峡に浮かぶ要塞の役目をしていた。このモン・サン=ミシェルがイギリス軍に囲まれながらも失陥しなかったことで、ミカエルへの信仰がより強くなったといわれている。

EAO 2016 at Palais des Congres de Paris in France 開幕
(The 25th Annual Meeting of the European Association of Osseointegration)

ようやくこの場に立てました。この学会は2006年からずっと行きたいと切に願っていた学会です。毎年行われるのですが、色々な理由もあって行けないでいました。インプラント関係では恐らく世界で一番しっかりしている学会および関係者で構成されているのが魅力で、各国の著名人が集まってロジックとエビデンスに基づく臨床を考えコンセンサス提示するのがとても印象的です。私の臨床にもマッチしており、憧れの舞台でした。

開幕講演では、インプラント学会でありながら歯をできるだけ保存しようという試みや、どう残すのか?どう処理するのか?をDr.Salvi(ベルン大学歯周病科教授)、Pro.Hemmerleらが協議してスタートしたことにはとても意味があります(もちろん保存といっても、むやみやたらな保存ではなく歯周病医が語るエビデンスベースである)。偶発症のみならず合併症や長期予後を考え、また設計を考えた上でどのように対処していくかを提案するものでした。近年どこの学会でもPeri-implantitis(インプラント周囲炎)の話や発症してからの対処方法や原因、治りもしない経過報告の協議ばかりがなされていた中、そもそも発症してから考えるのではなく、未然に防ぐ対策をとっておこうとするGeneralな考え方がトピックとして出てきたのには進歩があるように思えます。そもそも諸外国では専門医やスペシャリストがその専門分野だけに特化して、技術論で対応することが多かったように思えるからです。そんな中、インプラント診査診断をする前に、合併症を考慮した設計と対処をもっと考えるべきだということでしょう。まさにそのとおりです。それがスペシャリストの権威たちが言うことで統制が取れるのも事実。治療に懸命な歯科医師たちは実はそんなことは前々から分かっていたはずなのですが、どうしても大きな学会となると専門家たちが多くなり、大きなバイアスが発生してしまうのです。

会場を盛り上げるため、良くありがちな“迷える症例”を提示して、会場全体からスマホで意見を出させるなど会場参加型でコンセンサスを得たり、その後の専門医たちの意見を取り込み協議させるのは新鮮で、面白かったです。

インプラント学会で歯を保存するための施策をレクチャーするのは意外で、ラバーダム防湿をして治療している写真をあえて出すなど(根管治療をするときに使用するゴムのシートをさす)(ラバーは当たり前だが、外科系専門家では当たり前ではなかった。)無言の暗黙を提示していたに違いない。

症例を見ていて、個人的にはもう少し踏み込んでほしかったようにも思えます。例えば複雑なケースでも適応症と臨床の引き出しの幅があれば歯周外科、外科的歯内療法と再生療法をあわせてインプラントデザイン/補綴デザインをしても十分シンプルにいけるケースもありました。まあそこは、インプラント学会だから仕方がないかもしれないですけどね。

しかし学会単位で考えれば、やはり大きな進歩といえます。今までのテクニカルな面や経過報告はもう聞き飽きたし、フランク・レノアー(レヌアー)先生のプライベートレッスンでのディスカッション時に「初めの成功率よりも後の合併症が少ないほうがトラブルは大きくなりにくい」と言っていたのが印象的でした。それは、最初のオッセオインテグレーション(骨とインプラントが結合すること)の成功率を上げるために必死になって1%追うよりも、晩期失敗を未然に防止するほうがはるかに救えるという発言に思える。確かにそうだ!

ほかにも面白いことを言っていたDr. がいました。審美ダメージvs心理ダメージ。賛否両論出そう発言ですね。

まとめると、
・インプラントの設計を早まるな!
 →いきなり確定での診断を急ぐな!
・ちゃんと保存の対処をする!
・メンテは確実に!

「歯に最後のチャンスを与えよう」(Dr. Salvi:歯周病専門医)

これって患者さんにもよく言えることだと思うのです。患者さんは結論を急ぎますよね。
そうじゃないんですよ。必ず初期治療があって、その真実を確かめる必要があるのです。

ところでレノアー(レヌアー)先生は大会長なんです(EAO理事)。今回は地元パリでの開催なので、大会長が二名選出されており、レノアー(レヌアー)先生はその一人です。以前にEAOのメイン大会長を務めたことのある偉大なる先生なのです。この学会は普通の学会とは違うので、臨床・研究総合しての知識と人望、そして臨床に精通していなくては選出されないのです。

フランク・レノアー(レヌアー)先生を簡単に紹介します。
元EAO(ヨーロッパインプラント学会)会長/
2016年セカンドチェアマン/EAO理事
世界的に有名な論文の発表。2003~2006年はショート・インプラントを科学的に証明し臨床で応用できることを確立した功績。サイナスリフトだけでも年間150症例以上をこなし、パリにおける数少ない著名なインプラント専門医。研究・学術・技術・症例ともに世界的に見て非常にバランスの良いドクターです。私の師匠である歯周病の権威・弘岡秀明先生、インプラントの権威・古賀剛人先生と仲良しです。

なんと!私の師匠、古賀先生がEAOの座長を務めることに!
実力世界の学会で座長に選出されることは大変な名誉で、私も誇らしいです。

~日本人が世界で大活躍~
大会2日目はJapanセッションや日本人が座長およびスピーカーを務めるなどして、格式高く世界規模のヨーロッパインプラント学会でもその存在感をアピール。東京医科歯科大学 春日井教授の講演、小宮山先生、古賀先生の座長、マルメ大学准教授の神保先生が登壇されました。私自身、世界の著名な先生とのきっかけが出来たことはとてもうれしく刺激的な一日でした。ブローネマルククリニックの初期メンバーで今日最高の歯科医師であるDr.Friberg、Dr.Torsten、Dr.Grunderなど、今まで論文でしか知らなかった著名な先生方とお会いできたことは何よりもうれしい。彼らは社交的でとてもジェントルマンでした。これら先生方のようになりたいと憧れてしまいます。

EAOセッション後はトーメンメディカル(スイス)の招待で社交界へ。エッフェル塔の一部を借り切って夜景を満喫しながらの社交界参加はロマンティックそのものでした。元ストローマン社のSLE開発者などすばらしい研究者にもお会いできた。次は積極的なコミュニケーションが取れるよう、語学力を身につけたいと上げ上げです。

EAO最終日はメジャーな先生方が壇上に上がるも、大きな収穫のあるトピックはありませんでした。会場を巻き込んだアンケート調査で周囲の外人や専門家たちがどのように考えているかが分かったことだけでが良かったかな。正直、日本でがんばっている臨床家は負けてません。どんどん日本のすばらしさを伝えていきたいものですが、サイエンスと語学の壁が大きいのもまた事実。私も今後の課題を持ち帰って次に備えようと思います。

集合写真はEAO日本人参加者だけで撮影。レノアー(レヌアー)先生が日本人向けにヒューマンエラーについてシェアしたかったことを皆で聴講しました。

インプラントの世界でもっとも権威ある学会EAO(ヨーロッパインプラント学会)に3日間参加し、論文などでしか知らなかった先生などに直接お会いし、歯科医療の話ができたことは私の大きな財産になりました。

振り返ると本当に実りのある研修を受けてきました。技術はもちろん最新の知見や、過去からの長期予後と、常に問題意識をもって知り得たい情報を明確にして、日常臨床の疑問を払拭してまいりました。

講義・研修の合間にはモン・サン=ミシェルやベルサイユ宮殿まで足を運んで世界遺産に触れることもできました。過去2回のパリ訪問では観光はほとんどできませんでしたが、今回はパリの伝統や食文化を体験し、接待・パーティなどでの臨床以外の学びなど、人間としての教養も大きく得られたと感じました。

ともあれ今後の私の課題や目標が明確になり、さらなる挑戦へのモチベーションを上げることができたのはとてもうれしく思います。

人生観を大きく拡げて帰国できたことは、今後の私の歯科臨床にも大いに役立つものと思われ、今まで以上に患者さん一人ひとりにより良い医療と環境を提供していきたいと意気込んでおります。

今回の研修を踏まえて、自分の強みは総合歯科であり、適切な診査診断力で頭抜けていると自負しています。技術的にも遜色はないと考えますが、トップレベルとはまだまだ大きな差があるのも確かだと感じています。そしてサイエンスと医療戦略の見方というものに課題を見出すことができました。

自分を高めることが、必ずや患者さんや地域のためになると信じて、これからも私の挑戦と海外研修は続きます・・・